新型アフリカツインのホンダの対応から考えるトヨタのGRという話。

先に断っておくが、これはいい悪いの話でも、批判する話でもなく、あくまで分析した結果、僕がしたいことを長々書いています。だから、一番言いたいことは『最後の一文』にあることを踏まえた上で、読んでください。

東京モーターショーに鎮座していたホンダの新型アフリカツインは、日本人に合わせたローダウン仕様だった。アフリカツインはヨーロッパやアメリカなどがメイン市場のバイクなので、それを日本人体型に合わせたモデルが国内販売されることになった。これだけ聞けばホンダの英断、良くやった！　と思うだろうが、今回はそうはならない。一部のライダーにとっては。

というのも、今回の新型アフリカツインは、国内ではローダウンモデルしか売らなという。

新型は、オフロードの走破力を高めたアップデートが目玉で、事実、PVには砂丘を縦横無尽に走る姿が大々的に公開されており、その走りこそが今回のセールスポイントとなるものだった。それがサスストロークが4センチも短縮されたモデルしか出ないとなれば、オフロードライダーからすれば、ガッカリを通り越して怒りに変わるのも無理はない。

そりゃそうだ。アフリカツインでオフロードを楽しみたいユーザーにとっては、今回のアップデートは心待ちにしたものなのに、いざ蓋を開けて見たら、綺麗さっぱりなくなっていた、という事なんだから。本場の博多ラーメンが東京に進出してきた！　と店に行って見たら、「東京は背脂人気なんでしょだから背脂入れときました！」みたいなラーメンが出てきて、どこが博多ラーメンじゃ！　という感じである。

サスペンションストロークが短くても、オフロードでは十分に走りますよ！　みたいな話もあるが、それは根本的な疑問解消になはらない。なぜなら、欧州モデルが本物だからで、あくまで国内モデルはデチューンだからだ。サスストロークが短くても、十分にオフロードを走りますよ、というコンセプトで開発されたモデルなら、その理屈も通るが、理想形はあくまで欧州モデルとして開発されているのだから、ローダウンはやっぱりデチューンだ。

では、なぜオフロードライダーはサスストロークの量にこだわるのか？　それってエンジンパワーの数値が高ければ満足するマニアと同じじゃないのか？　と思われる方もいるだろう。

ここで簡単に説明すると、オフロードは凸凹路面があり、時にはジャンプもする不整地である。こういうところを走ると、サスペンションが大きく動くことで、ライダーへの衝撃を和らげてくれるわけだが、その動く量が多ければ多いほど、より強い衝撃に耐えることになる。オフロードのサスペンションストロークは、300ミリ前後にだいたい落ち着いていて、モトクロスやエンデューロ、またはラリーマシンにおいても、だいたいその長さだ。それに対して、アドベンチャーバイクはだいたい200ミリ。つまり、オフロードでの走行を考えると、圧倒的に短いのだ。それに加えて車重が200kgを越えるため、小さなギャップでも簡単にサスペンションがフルボトム、底づきしてしまう。

それに対して、アフリカツインは240ミリを確保してデビューしてきた、オフロード志向の強いバイクだった。それが、今回の国内仕様は4センチもダウンしたモデルしか売らないという。ファンからすれば、ただのツアラーバイクになり下がったと思うというわけだ。

中には車高が下がったことでオフロード性能が上がる、なんて表現しているメディアもあるが、これは根本的に間違っている。なぜならアフリカツイン問題は車高の問題ではなく、サスストロークの問題だからだ。サスストロークがそのままで、車高が下がったのなら、それは低重心化が図られていい事だが、サスのストロークを犠牲にしての車高下げは、結局走破性を犠牲にしているからだ。

本来ならローダウンメインで、欧州で販売されているモデルを限定販売、もしくは受注生産という形でも取っていれば、こんな騒ぎにはなっていないのだが、国内販売は完全に切り捨てた。だから、アフリカツイン本来の性能を手に入れようと思うと、逆輸入するか、30万円余計に払って、サスペンションを総とっかえするしかない。それはあまりに非現実的だ。

実際開発側と国内販売とで相当議論したようだが、国内販売するHMJは、頑なにローダウンしか売らないと決めたという。これにはHMJ側にも言い分がある。というのも、現行モデルのアフリカツインでは、圧倒的にローダウンが売れたんだという。その数字は入手していないが、おそらく8割9割がローダウンを選んだとみる。とするならば、HMJからすれば、足が届かないモデルは、持っていても在庫になるだけでいらない。ラインナップから外してしまえ。というのも頷ける。

実際アフリカツインでオフロードに行くライダーはごくごく稀だし、商売を考えれば無視できる数字。おそらく、販売台数としては、ローダウン一本でも落ち込むことはないと分析するし、もしかしたらもっと売れるかもしれない。

そもそも、ホンダの販売店はオフロードバイクとして売っていないからだ。

オフロード性能は、オフロードに行ってこそ活きる。だから、行かないライダーには全くの無用の長物。なぜなら日常生活において出くわすことがないからだ。わざわざ出向いていかないと、オフロードを体験することは、日本においてはないからだ。ということは、販売店が積極的にお客さんをオフロードライディングに誘わないと、出会うことがない。そういう仕掛けをしなければ、売れない商品だからだ。

しかし、その仕掛けをするのは大変だ。週末に林道ツーリングやオフロード走行会、初心者スクールなどを開催し、多くの手間と時間をかけなければいけない。しかもそれをやったところで売れる保証もない。ましてや、一番バイクが売れる土日に店員を外に出すのか？　もっと言えば店を閉めて出かけるのか？　となれば、そりゃ敬遠したくもなる。

もちろん、そう行った仕掛けを行っているバイクショップはある。そういうところにはオフロード好きが集まるし、オフロードバイクが売れる。でもそれはノウハウがないと出来ない。ショップがオフロードに興味がなければ、そもそもが出来ない方法だ。

だから、ホンダの販売店はその方法を切り捨てた。バイクとして買いに来るお客さんに、お客さんが欲しがるバイクを用意する。足がつかないといえばより車高の低いバイクを用意する。価格が高いと言われれば値引きする。そういう商売にシフトしたという事だ。と言うか、もうなっている。

勘のいい人はお気付きになるだろう。この販売方法って、４輪のそれに似てるということを。そう、ホンダの販売店は4輪化したのだ。